打って、守って、恋して。
『いや、別に今日じゃなくてもいいんです。石森さんの都合が悪ければ…』
気を遣われて、このまま引き下がられてしまうことがつらい。急いで彼の言葉を遮った。
「ぜんっぜん空いてるんです、ひまなんです!だけど、その」
『はい』
「お風呂から上がったばっかりで、すっぴんだし、顔面にちょっと色々問題がありまして…」
電話口からちょっと遠いところで、明らかに吹き出したのが聞こえた。
めちゃくちゃ笑われているんですが!
しばらくしてから、ようやくいつもの藤澤さんの声。
『もう時間も遅いですし、また今度にしましょう。……って言っても、次に会えるのは大会のあとになりますけど。……あ、でもこれなまものだな。まずいな…』
「えー!それならなおさら!今すぐ塗装しますから、ちょっと待っててくれませんか?」
『やめてくださいよ、なんで笑わせるんですか?』
「どこに行けばいいですか?」
肩と頬に携帯を挟んで、化粧ポーチをテーブルに置いてジップを開ける。いそいそと鏡を広げていたら、
『じゃあ、そのままでいてください。家まで行きます』
と聞こえてきて、一瞬、動きを止める。
「家まで!?」
『いちいち化粧なんていいです、面倒でしょう?お土産を渡して三秒で帰りますから』
「そういう問題じゃないのに!」
抗議の真っ最中だと言うのに、電話は切られていた。
いつの間にかテレビの中の野球中継では、攻守交替した両チームが最後の締めに入っている。
抑えの守護神というやたらと身長の大きな外国人ピッチャーが、バッサバッサと打者を三振にとって吠えていた。