打って、守って、恋して。
彼を見ているしかできない

連日、夏の高校野球で盛り上がっていたらしい世の中。
なんとなくニュースなどでは耳にしていたけれど、しっかり調べたら北海道代表で出場していた二校のうちの一校は、藤澤さんの出身校だった。
どうやらわりとコンスタントに甲子園へ出場する常連校のようで、彼が二回言ったことがあると行っていたのはたしかなことで、そんな強い高校で野球をしていたということが私には感動ポイントのひとつでもあった。

きっともっとちゃんと調べてみれば、彼がいかに野球がうまくて野球と真摯に向き合ってきたのか分かるのだろうが、あまりにも自分と経歴が違いすぎて、不思議な心地がする。

私にはこれといった取り柄がない。
彼のように何かに打ち込めるものを見つけられなかったし、絶対この仕事に就きたいと思って今の会社に勤めているわけでもない。

こんなに立場が違うのに、それでも彼を追いかけたいと思うのは間違っているだろうか。


「おぉ、なんだ、日本ちゃんと勝ち進んでるんじゃないか」

今日の新聞を広げた淡口さんが、老眼のためか少し距離をとりながら目を細める。その先には、昨日のアジア競技大会の試合結果がずらっと並んでいるらしい。

まだ八月だというのに、先週あたりからちょっと肌寒くなってきたこの頃。
私も沙夜さんも揃って今週から長袖のブラウスを着用し始めた。

「載ってることは載ってますけど、扱いがひどいと思いませんか?」

朝一番でその新聞はすでにチェックしていた私が口をとがらせていると、たしかになぁと淡口さんは苦笑いしていた。

それもそのはず、アジア競技大会は野球以外にもたくさんの競技がある。野球だけ取り上げるわけにはいかないのだ。
連日熱戦が繰り広げられる多様な種目を、すべて事細かに伝えるわけにもいかない。
だから、本当に結果のみがちょろっと載っているくらいなのだ。

陸上競技の活躍がめざましいのか、スポーツ欄を飾るのはそちらの方が割合が大きい。

< 119 / 243 >

この作品をシェア

pagetop