打って、守って、恋して。
一人で笑いを堪えていると、淡口さんと翔くんが感心したようにうなずきあっていた。
「ふぅん。この男が柑奈ちゃんをたぶらかしてるというわけか」
「思ってたよりも普通っすね」
「小柄だし野球選手って感じもしないな」
「石森さんがその気になればイケメンの彼氏とかできそうなのに。なんかもったいなーい」
「もー!ほっといてよー!」
好き勝手に言っている男どもは放置して、私は乱暴に自分の机の下に置いていた箱を取り出す。
それを淡口さんの肩にぐいっと突きつけた。
「淡口さん。今日の十六時から、BSで試合の中継があるんです!見てもいいですか!?これ、賄賂です」
「わ、賄賂!?」
押しつけるように渡された箱を、淡口さんが慌てて受け取って中身を開ける。
「………………わかさいも……」
ゴクリ、と彼が喉を鳴らしたのは確認できた。
「─────淡口さん、わかさいもお好きですよね?」
「柑奈ちゃん……いつからそんな強かになったんだ」
「どーーーしても見たいんです!残業代なしで残業しますから!」
好物のわさかいもを目の前にして、淡口さんをほだすのはとっても簡単だった。
渋っている振りをしていても、最後には許してくれるのが丸わかりである。
箱をぎゅっと抱いた淡口さんは、ひとつ咳払いをしてから「ま、いいか」と肩をすくめた。
交渉成立!
「やったね、柑奈ちゃん!」
「沙夜さーん、ありがとうございますー!」
私たちはにっこり微笑み合うのだった。