打って、守って、恋して。
試合開始の十六時より少し前に、中継は始まっていた。
私がテレビをつけた時にはすでにスタメンが発表されており、ちょうど相手チームのチャイニーズタイペイのオーダーを実況アナウンサーが読み上げているところだった。
誰も使っていない応接スペースのソファーに腰かけて真剣にテレビを見ていたら、ふと気配がして振り返る。
沙夜さんだけでなく、なんと淡口さんと翔くんも私の周りに集まってきたのだ。
しかも、淡口さんに至ってはお茶とわさかいも持参。
「野球はみんなで観戦した方が面白いからね」
ハッハッハと笑う淡口さんをよそに、実況と解説の意外な言葉が耳に飛び込んできた。
『我々も今日のスタメンを見た時は少し驚きましたね、ガラッと打順を変えてきましたから』
『準決勝に進出して、これまでの成績を加味して首脳陣で相談したんでしょう。私にはこれはわりと攻撃布陣に思えますね』
『攻撃布陣ですか、どのあたりが?』
『まず前試合まで下位を打っていた藤澤をトップバッターに据えたところが、なかなか面白いなと。彼は今大会かなり当たってますし、特別俊足というわけではありませんがピッチャーのモーションを盗むのがうまいです。ぜひランナーで出て塁をかき乱してほしいですね』
『それから六番を打っていた菅原が四番になり、下位を打っていた江田と齋藤はベンチに下がり、メンバーの入れ替えもありましたが…』
「ト、ト、トップバッター!?」
私だけが一人で飛び上がるように叫んでしまった。