打って、守って、恋して。

「え?なになに?藤澤くん、出ないの?」

「違いますよ!出てるんですけど、……あーもう、なんて説明したらいいのか……」

ルールを知らない沙夜さんに説明したくても、うまくできないもどかしさ。

「やまぎんのチームではずっと二番を打ってたんですよ。一番で打ってるのなんか、見たことなくて…」

「すごいの?それって」

「えーと、えーと」

もごもごと言い詰まっていたら、淡口さんが助け舟を出してくれた。

「野球は打順によって求められることが違うんだよ。特にトップバッターっていうのはとにかく塁に出ることが大事でね。普段は二番ならいつもは繋ぐバッティングをしていたところを、今日は策士になってあれこれ相手を揺さぶりながら塁に出なくちゃならないわけだ」

「そ、そう!それです!」

「えー、なんかよく分かんないけど大変そう」

絶対に沙夜さんは意味を分かっていない。


そうこうしているうちに、試合開始の時間になってしまった。
私の心臓の準備はまだだというのに、時間は待ってなどくれない。

テレビ画面には投球練習するチャイニーズタイペイのピッチャーの姿。
そして、次の場面ではバットを素振りをしている藤澤さんがはっきりと映し出された。

藤澤さんが、テレビに映っている。
それだけで胸が痛くなりそうだった。

いつもの青いユニフォームじゃなくて、ストライプの日本代表のユニフォーム。ヘルメットも青じゃなくて黒。
違う様相ってだけで心が落ち着かなかった。

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