打って、守って、恋して。
『勝てば決勝、負ければ三位決定戦という大事な準決勝の試合です。バッターボックスへゆっくりとした足取りで背番号14の藤澤が入ります』
流れるような聞きやすい口調で実況が話しているのを、ぼんやりと耳に入れながら祈るように手を組んでテレビ画面を見つめる。
文字だけの試合速報のほうがよっぽどましだ。
こうして中継で彼の姿を見ると、「頑張って」と祈ることしかできない自分の無力さを実感してしまう。
『いよいよ試合開始です!ピッチャーが第一投、投げた!ストライク!……初球はスライダーから入りましたね』
『藤澤がどう切り込んでいくか見ものですね。ボール球の見極めに関しては、彼はそこそこいいものを持っていると思います』
『えーっと資料によりますと、藤澤は普段のチームでは二番を打つことがほとんどということで……』
藤澤さんがバットを構える横顔にかぶさるように、「山館銀行(北海道) 左投左打 二塁手」などと情報の字幕が出ている。
「へぇ。左投げのセカンドか。珍しい」
字幕に食いつく淡口さん。
そうなんですか?と首をかしげて沙夜さんが眉を寄せた。
「左利きだと一二塁間で捕球して一塁に投げる時に、右利きよりひとつステップを多く踏む必要があるんだよ。ロスになるから不利って言われていて、プロ野球でもほとんど見たことないなあ」
「へぇー、藤澤くんやるぅ」
「……相田さん、適当に返事してません?」
鋭い翔くんのツッコミが入ったところで、二球目は大きく外れてボール。
固唾をのんで見守る私の横で、三人は楽しそうに会話している。
「いやぁ、それにしてもこの人、さっきの写真とえらい違いっすね!帽子かぶってた方がいい顔してる気がしますよ」
「目がいいな。よく集中してる目だ。こういう目をしてるやつは伸びるんだよ」
「たしかにいつもと顔つきは違うかも~」
「もーーーーー!試合に集中!!!!!」