打って、守って、恋して。

我慢できなくてがばっと立ち上がって私が吠えた時、カン!という打球音が聞こえて我に返った。


『真ん中やや高めにきたストレートを引っ張った!ライト線ギリギリ……入った!フェア!フェアです!バッターランナーの藤澤は!おお!もう二塁に到達しています!余裕があります!』

捕球したライトの選手は、ランナーが二塁から先へ進まないのを確認してからボールを二塁手へ送る。
二塁ベースに片足を乗せた藤澤さんは笑うでもなくガッツポーズするでもなく、打撃用の黒い手袋を外しながらベンチのサインに冷静な表情でうなずいているのが映った。

そう、この顔だ。
いつ見ても終始笑わず、試合に真剣に取り組む姿。
これをテレビ越しに見ることになるなんて、初めて見た時には想像もしていなかった。


「初っ端からツーベースとは幸先いいっすね!」

「エグいスウィングしてたなあ」

男性二人は野球観戦が好きだからか、ノリノリで見ている。

私の方はまだ第一打席だというのに気持ちがこもりすぎて疲れてしまい、ソファーの背もたれにへたり込んだ。
隣に腰かけた沙夜さんが、楽しげに親指を立ててにっこり笑う。

「かっこいいねー!よく分かんないけど、活躍してるじゃーん」

「……私、もうバッターボックスに立つ藤澤さん見るのやめようかな」

「なんで?」

「精神力を使い果たしすぎて、残業できるか不安なんです!」

「つねに全力なのね、柑奈ちゃん」


だって、好きなんだもの。

そんなシンプルなことを思って、あれ、と自分に問い直した。


ファンだから応援したいし、好きだから応援したい。
どちらも私の、素直な気持ちだと気がついた。








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