打って、守って、恋して。
『なんということでしょう!あそこにセカンドがいるなんて驚きです。チャイニーズタイペイの選手たちも唖然としていましたね』
『セカンドの藤澤はバッターが打ってからの一歩目が相当速いですよ。球際にも強い。体勢を崩していても送球がしっかりしています』
『ここを切り抜けたのは日本にとって大きいですね!』
『一点差は怖いですね。一発が出たらと思うと配球の幅も狭まってしまいますので、日本もせめてあと一点欲しいです』
解説の男性が実況アナウンサーと違って非常に冷静に分析しているところがまた面白い。
ホッとしたように私たちは胸をなでおろした。
「なかなか強いわね、あっちの国」
いまだにルールを把握していないながらも、なんとか一緒に見ようという気持ちはあるらしい沙夜さん。
彼女はずーっと眉間にシワを寄せたまま、小難しい顔をしてテレビをみていた。
「アジアでは韓国が強敵なんだけどなぁ。今日は日本が苦戦してるんじゃないか?」
「けど、要所要所できちっと抑えてるからリズムには乗れそうな気もしますけどね」
淡口さんに乗っかるように翔くんが足を組んで真剣な表情でつぶやく。それに対し、いやいや、と淡口さんは首を振った。
「日本のピッチャーは内野陣の守備に助けられてるよ。今さっきのセカンドゴロといい、ショートゴロといい、ヒット性の当たりをただのゴロにしてもらえてるからなんとかやってる感じだな」
「…………淡口さんって、意外とちゃんと見てるんですね」
「失礼な!俺は四十年以上野球を見てるんだぞ。任せろ!」
普段の気の抜けた姿からは想像もつかない話をぽんぽんする淡口さんのドヤ顔が、こちらとしてはとっても不思議である。
「しっかし、うまいな。日本の二遊間はかなり鉄壁だな」
「ですよね、ですよね!」
褒められると自分のことのように嬉しい。