打って、守って、恋して。

六回表、変わらず1対0のまま。
日本は下位打線の八番からのスタート。

私は試合開始直後から、ずっと手を組んだまま。
力を込めすぎて指先の痺れが続いていた。

「石森さん、コーヒーどうぞ」

気が利く後輩・翔くんがアイスコーヒーを入れてくれたけれど、うなり声みたいな返事しかできない。

「毎試合、そんな感じで応援してるの?つらくない?」

さすがに心配したように沙夜さんがアイスコーヒーを飲みながら私の顔をのぞき込んできた。
自分でもこんなはずではなかったのに、と思う。

だけどどうにも気が休まらなくて、特にこんな一点差の息の詰まったような試合になると、藤澤さんたち選手はどんな気持ちで挑んでいるんだろうと考えてしまう。

「試合を見るごとに私の心臓が脆くなっていってる気がします…」

「それだけどんどん好きになってるんじゃないのー?」

「いいっすねー、青春……」

遠い目で翔くんが茶々を入れてくるが、そこはあえて反応しなかった。


このあたりで時計も十七時半を回り、営業の人たちが事務所へ続々と戻ってくる。
あまり使われることのない応接スペースに私たちが居座っているからか、みんな「何やってるの?」と集まってきた。

「おっ、アジア競技大会?野球やってんだあ」

「勝ってんの?負けてんの?」

あっという間に十人ほどで観戦することになり、楽しげに野球トークに花を咲かせる男性社員たちの姿を見ていると、野球ってみんなに愛されているスポーツなんだなと思わされた。

今まで興味を持たなかったことを後悔した。
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