打って、守って、恋して。
「野球ってたしかやまぎんから二人くらい代表で行ってるよね?」
営業さんの一人がわりと詳しいらしく、ちゃんと具体的な情報を持っている。
「そうなんだよ。そのうち一人は内野手でスタメンで出てるよ。もう一人はピッチャーだから今日は登板しなそうだな」
もうすっかり詳しくなった淡口さんが、滑らかな口調で説明してくれていた。
ソファーに座りきれない人たちは各々でキャスター付きのイスを持ってきたり、立ち見をしたりしてテレビに釘づけになる。
会社のみんなで応援するのも悪くない。
ひとつひとつのプレーで一喜一憂すると、一体感が生まれた。
先頭打者が外野フライで凡退し、次にラストバッターがあっさりと内野ゴロで打ち取られる。
ツーアウトランナーなし。
ここで打順は一番に戻って藤澤さんがバッターボックスに立った。
「おおー!やまぎんだ!頑張れー」
さっきまで四人で見ていたときとは打って変わって、野太い声援がテレビの中の藤澤さんに送られる。
私は手を組んだ状態で身じろぎもせずに見つめていた。
今日の彼は三打数一安打。初回のツーベースで出塁しただけにとどまっている。
『藤澤への第一球、ピッチャーが投げた。内角低めのボール。チャイニーズタイペイとしては日本を三者凡退に抑えたいところでしょう』
実況が切れのいい滑舌で、どんどん状況を口にする。
いったんインターバルを置くためなのか、黒のヘルメットを脱いだ藤澤さんがリストバンドでこめかみのあたりの汗を拭っていた。
すぐにまた手にしたヘルメットをかぶり直し、打席へ。
口元が見えなくなるようにバットを構えるのが、彼のいつものスタイルだ。