打って、守って、恋して。
『日本はまず塁に出ることが先決ですから、藤澤には相手ピッチャーを揺さぶってほしいですね』
『そうですね。この回の一番と二番があっさり凡退してしまったので、余計にそう思います』
『ピッチャー二球目を……投げた。おっと、ここでセーフティバントだ!一塁線へ打球が転がっていきます!』
わあっという歓声をバックに実況が一気にまくし立てる。
相手ピッチャーが投げた瞬間、藤澤さんは普通のバッティングフォームから体勢を低くしてバットを引き寄せ、ストライクを取りに来たストレートを狙って軽く当てた。
打球はコロコロと勢いをなくして一塁線ギリギリのところを転がり、慌ててピッチャーが拾い上げて一塁へ鋭い送球。
ベースを駆け抜ける藤澤さんの足と、二塁手がベースカバーに入ってボールを受けたタイミングを審判が見極める。
『セーフ!』
『おお!セーフです!際どいですがセーフです!ツーアウトからランナーが出ました日本』
実況の声を遮るように、私たちの事務所もパチパチと拍手を送った。
「あっち完全に油断してたな」
「よーしよし、ツーアウトからでもチャンスだぞー」
「ちゃんと振ってくれよー。ボールは振らなきゃ当たんねーぞー」
男性陣がテレビの中の選手たちに茶々を入れてゲラゲラ笑っているけれど、私はそっちのけでランナーで出た藤澤さんを探すので忙しい。
打者として映れば「打ってほしい」と息を止め、ランナーで出れば「走ってほしい」と息を止め、守備についている時なんて「打球はすべて一二塁間に飛んでいけ」と願ってしまう。
少しでも長く彼がテレビに映ってほしいなんて、この気持ちはファンでなければ分からないだろう。
心臓が張り裂けそうなくらい痛いけど、彼が活躍してほしいという思いは強くなる一方だった。
その後、二番打者が見事にツーベースヒットを放ち、藤澤さんはホームへ戻ってきてタッチプレーになったが、うまくキャッチャーのタッチをかいくぐって一点をもぎ取った。
これで2対0。日本が少しだけ突き放した。