打って、守って、恋して。

投球練習を終えた栗原さんが、帽子をかぶり直して内野陣になにか声をかけている。そしてもう一度マウンドへ戻ると、ボールを何度かグローブに当てて息をついた。

マウンドに立つ彼の背中は、たくさんの期待と声援を背負ってひときわ大きく見えた。


『いよいよ試合開始です!栗原、ノーワインドアップモーションから初球を……投げた。ストライク!』

しなやかに身体をバネのようにして、栗原さんが長身を生かして打者に向かって投げ下ろす。
鋭いストレートが右打者の懐の打てそうにもない位置に投げられ、キャッチャーのミットへいい音を立てて吸い込まれた。

「速い!152キロだってさ」

テレビ画面に表示された球速に、事務所がざわざわと揺れる。
都市対抗を見に行った時にも栗原さんはかなり速い球を投げていたから、速球は彼の武器のひとつなのだろう。


『二球目投げた……ストライク!今のはチェンジアップですか?』

『ですね。彼の得意とする持ち球ですよ』

『先月の都市対抗野球大会では相当数の三振を奪ったとのことですが、今日はどのような作戦でいくのかバッテリーの狙いも気になりますね』

先頭打者の選手はツーストライクで追い込まれたが、三球目のボール球を余裕をもって見逃していた。
配球が読まれているのか、それとも選球眼がいいのかはまだ分からない。


四球目を栗原さんが投げた。たぶんストレートだと思う。
それを、打者が思いっきりフルスイングで打ち抜いた。

気持ちがいいくらいに打球音が鳴り響いて、目で追えないほどのスピードでセンター方向へ抜けていく。

そこへ待ち構えていたのは藤澤さんだった。
少しだけ体勢を崩しつつゴロをとった彼は、身体についた勢いを利用して走りながら軽く一塁へボールを送る。
バッターランナーの足よりも早く、ベースカバーに入った栗原さんのグローブにおさまり、あっさりワンアウトをとることができた。

アウトにできたことを確認して、藤澤さんは涼しい顔で自分のポジションへ戻っていく。

『今のをアウトにできたのは大きいですね。先頭打者を打ち取るのと打ち取らないのとでは気持ちの面で全然違いますから』

『栗原と藤澤は北海道の山館銀行で一緒にプレーするチームメイトですからね。うまく栗原を盛り立てる守備をしてくれましたね』

『北海道はいいですよね。美味しいものも多いですし、観光スポットもたくさんありますから……』

実況が勝手に野球と関係のない話をし始め、思わず吹き出してしまった。

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