打って、守って、恋して。
今日の栗原さんは、都市対抗の決勝でリリーフ登板した時みたいに投球のテンポがかなりいい。
彼のこのテンポの良さというのが、もしかしたらその日のバロメーターにも繋がっているのではないだろうか?
チェンジアップの善し悪しもあると思うが、今日は調子は良さそうだ。
その後、残りの二人を三振にとった栗原さんは、引き締まった表情のままベンチへと戻っていった。
「いいぞー!北海道の誇りだ!」
あはは、と営業さんの一人がお酒でも飲んでるみたいに野次っている。
うるっさいなぁ、と聞こえないように文句を言っている沙夜さんは、たぶん野球のルールは分からなくても栗原さんの気迫あふれるピッチングに少しは心が掴まれた様子。
まだまだ一回の表が終わっただけ。
これから長い試合が続いていく。
この胸のドキドキと高揚感が、ずっと続くのだ。
ベンチに戻ったと思ったらすぐに攻撃の準備に入る藤澤さんが大写しになり、まともに画面を直視できない。
戦場に向かう戦闘員の、凛々しい顔といったところか。
かっこいい、とまともに表現するのも厚かましいほど、彼が好きなんだと思わされる。
『一回のウラ、日本の攻撃です。昨日のチャイニーズタイペイ戦では五打数二安打だった藤澤がトップバッターです』
『彼はどちらかというと守備がうまいというイメージだったのですが、打撃も悪くないですね。ちゃんと与えられた役割を分かっていて、それを果たすことだけを考えているようなバッティングをしています』
『裏話ですが、チームメイトの栗原がプロ入り確実と言われていることに対して、藤澤は自分のことのように喜んでいたそうですよ』
『いいですね。チームにとっても刺激になりますからね』
なんていい裏話を挟んでくれたんだ!と実況アナウンサーを心の中で褒めちぎった。