打って、守って、恋して。

『あぁーっと!ここでついにボールです!外れました!フォアボール!藤澤、粘って粘ってフォアボールを選びました!』

『これは相当相手をイラつかせますね。ここで盗塁のひとつでも決めたら、さらに動揺させることができるんですが』

『彼は今大会、盗塁は二つですね』

『左ピッチャーだから無理しなくてもいいんですけど、狙うのもありですね。おそらく藤澤をやっかんでますよ、あははは』

場違いな笑い声を上げた解説者は、昨日とは違う人のようだ。
藤澤さんは駆け足で一塁ベースへ行き、一塁コーチと軽く手を合わせてタッチしていた。


「色々な攻撃のアプローチがあるんだなぁ」

野球を知って数ヶ月やそこらの私には、まだまだ知らないことがたくさんだ。





……しかし、それからの藤澤さんはどうにも打撃がハマらなかった。
チャンスの場面で回ってくることもあったし、先頭バッターで立つこともあった。

うまくセーフティバントなどでかき乱してほしかったが、前日にも同じ攻撃をしているからかバッテリーの警戒が強く、内野陣も前進気味に守備位置に立っておりそれはできそうにもない。

結果は、三振、外野フライ、キャッチャーフライ、そして内野ゴロ。

五打席の内容を見ても、お世辞にもいいとは言いがたかった。
私が彼の試合を見てから、初めてと言ってもいいくらいの打撃成績だ。


「石森さん。そんなガッカリしたような顔してますけど、これって普通なんすよ?毎試合、二安打や三安打してたらとっくにプロに行ってますよ。波があってこその野球ですからね」

翔くんに諭される日が来るなんて。
だけど、彼が言っていることは間違ってなどいないんだろうなということは分かる。


試合自体は2対2の同点のまま、八回に突入したところだった。


『栗原がいいピッチングしてるから報われればいいのですが、そう簡単にいかないのが韓国チームの怖さですね。やはり強いです』

球数が百二十球を超えた栗原さんが、マウンドの上で汗を拭う姿が七回あたりから頻繁に見られる。
体力がそろそろ持たないかもしれない、と解説も言っていた。

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