打って、守って、恋して。

「……あ、ほら見て見て!栗原来た!あそこにいる背が高い人!柑奈、見える?」

いつの間に取り出したのか、今度は凛子は双眼鏡を持ち出してグラウンドに向けながら私の肩を興奮気味に叩く。
凛子は双眼鏡のおかげでよく見えるかもしれないが、私にはどの人か見当もつかない。

なにしろ、青いユニフォーム姿の人はグラウンドにたくさんいて、相手チームのオレンジ色のユニフォームの人たちも同じようにたくさんいる。
敵味方の区別はついても、どの人が誰とかまでは分からない。

……と、思っていたのに。

凛子とほぼ同時に栗原さんの存在に気づいた周りのファンの女性たちが、火がついたように「きゃあ!」「栗原さーん!」と歓声をあげ始めた。

「わぁ、すごい。栗原さんて、本当に人気なんだね」

「バカッ!なに呑気なこと言ってんのよ!あの顔にあの身長にあの投球、みんな注目するに決まってるでしょ!」


双眼鏡を借りて栗原さんを探すと、ファウルゾーンにあるブルペンでキャッチャーを相手に投球練習をしていた。
背番号11をつけた長身の選手が、まさに彼だ。

こうして拡大して見ると、遠いけどたしかに絵になるかっこよさだと思った。
髪の毛は長めなのか帽子の後ろから黒い髪が流れていて、時折汗を拭う時に帽子を外して首を振って髪をほぐしている姿は、私でさえ軽くドキッとするのだから凛子みたいなファンは絶叫モノだろう。

< 14 / 243 >

この作品をシェア

pagetop