打って、守って、恋して。
「ホ、ホームラン!?」
私が声を上げたと同時に、事務所内でも大歓声が上がった。
「ホームランだぁ!スリーラン!石森さん!逆転サヨナラスリーランですよ!」
興奮した翔くんが私の肩を揺すってきたけれど、まだ全然実感が湧いてこない。それは、私だけではなかった。
ホームランを打った張本人の藤澤さんが、明らかに驚いた顔をしていて、その顔のままベースを回っていた。
相手チームのベンチは静まり、守備位置についていた選手たちはその場から動けずにいる。一方、日本勢は全員がベンチから飛び出し、ホームベース付近で藤澤さんが帰ってくるのを待ち構えていた。
完全に困惑した表情でホームへ戻ってきた彼はチームメイトにヘルメットを奪われ、その頭をぽんぽんと叩かれている。
やっとここで藤澤さんが笑顔になった。
「ホームラン最高!北海道の誇りだー!」
淡口さんはいつの間にか立ち上がって拍手を送っている。
すっかり気が抜けて身動きひとつ取れなくなってしまった私の顔を、沙夜さんがのぞき込む。
「柑奈ちゃん、よかったね。藤澤くん大活躍!」
「…………嬉しくて仕方ないです、って素直に言えたらいいんですけどね」
「え?」
「沙夜さんがさっき言ってたみたいに、もっと遠い人になっちゃいました……」
顔を両手で覆って、大盛り上がりの事務所の中で私ひとりだけ、嬉しさと切なさが混じり合ったような複雑な気持ちが渦巻く中に迷い込んでしまった。