打って、守って、恋して。
「栗原はたぶん、来年はプロに行っちゃうんだよね〜。やまぎんの栗原は今年が見納め。だから、なるべく登板日は遠くても応援に行きたいの!」
何気なく言った凛子の言葉に、私は驚いて双眼鏡を外した。
「え!そうなの!?プロに行くの!?」
「去年からかなりいい成績残してて、目立ってるからね。今年に入ってからプロのスカウトマンが見に来ることも多くなったし、試合ごとに注目度は高まってると思うよ」
「へぇー、すごいねぇ、プロかぁ…」
あのテレビの中で試合をする、私たちからすれば絶対的に遠い場所へ栗原さんは行ってしまうのか。
彼のあの容姿であれば、人気は即座に全国区のものになりそう。
すっかり栗原さんのことばかり話し込んでいたが、ふいに思い出した人がいた。
……そうだ、藤澤さんは?
首にかけていた双眼鏡で探すけれど、見つけられない。
そもそも彼の背番号も知らない。
試合が始まれば分かるかなと彼を探すのは諦めようと思った時に、凛子がまたしても私の肩を叩いた。
「あっ、柑奈。ほら、藤澤職人いるよ!ノックうけてる」
「どこ?ノック?」
「グラウンドの、一二塁間にいるよ。背番号は6。見えるかなー、今コーチがランダムにボール打ってるでしょ?それを受けて一塁に戻してる」
いわゆる守備練習か、と双眼鏡を借りたまま一二塁間にいるという藤澤さんを見ようと目を凝らす。
少し時間はかかったが、やっとのことで彼を見つけた。
彼は青いユニフォームに身を包み、腰を落として軽い足取りでコーチが打ったゴロをとって一塁へ送っている。
ここで初めて、本当に彼は野球をしているんだなあ、と不思議な気持ちになった。
「相変わらず無駄のない動きだわー」
「そうなの?私にはよく分からないけど」
感嘆のため息をもらす凛子に私が手を広げて肩をすくめると、彼女はなにやら不敵な笑みを浮かべて肘で小突いてきた。