打って、守って、恋して。
「ちょっと急ぎすぎました、俺。すみません」
斜め上から降り注ぐ彼の言葉に、私はハッとした。
誤解を招くようなことを言ったのは間違いなく私なのでハッとするのもどうかと思うのだが、さっきの言動で彼にいらない感情を見せてしまったと焦る。
「違います」
「え……でも」
「村尾も魔王も、今日行っちゃったら……、もうそれで終わりでしょう?」
彼の目に困惑の色が浮かび上がる。
「約束を果たしたら、終わっちゃうから」
言いながら、もうこの想いを消すことなんてきっと無理なんだろうなと涙が込み上げてきて、それを堪えるので声が震えた。
「まだもっとたくさん会って話したいんです。そのために、村尾も魔王も残しておきたくて。……ごめんなさい。謝らなきゃいけないのは私なんです」
「じゃあ、もっといっぱい約束しましょうか」
思っていたのと違う切り返しが来たので、思わず足を止めて彼を見つめる。ついでに涙も目の中に溜まったくらいでなんとか持ちこたえた。
藤澤さんはふと微笑み、あたたかくて優しい眼差しでこちらを見ていた。
「ビールの飲み比べができるお店も行きたいですし、たまには贅沢してすき焼きも食べたいです。それから、和栗のモンブランパフェも。あと、石森さんを連れていきたいところもあります。どうですか?」
「……大丈夫ですか?飲みすぎ食べすぎで不摂生がたたって選手生命の危機とか……」
「ちゃんと計算してプラマイゼロにします。得意ですから、そのへんは」
昔からやってることなのでとつけ加えた彼に、私はすぐさま
「全部行きます!」
とうなずいた。
「よかった。終わりじゃないですから、心配しないでください」
「……はい」
私と彼はもう一度、ちゃんと肩を並べて歩き出した。
さっきとはまったく違う気持ちを抱きながら。
好き、好き、好き。
シンプルなその言葉だけが、私の身体を丸ごとかたどって包み込んでいた。