打って、守って、恋して。
「いつも誰かと来るんですか?」
一人で釣りって、絶対に退屈だろうと決めつけてそう尋ねたら、彼は少し答えに困ったのかすぐには返事を返してこなかった。
「一人で来ることもありますし、友達を誘うこともありますね」
「一人だと魚が釣れない時とかつまらなくないですか?」
「いや、けっこうガンガン釣れますよ。渓流釣りなんですけど、今の時期だとニジマスかな」
「川魚かぁ。塩焼きにしたら美味しそう」
「十月に入っちゃうと釣りができなくなっちゃうんで、ギリギリ来れてよかったです」
動きやすい格好で、と言われたからかなりカジュアルな服で来たのは正解だった。
大きめのアイボリーのパーカーにデニム、スニーカー。
キャンプ場では間違いない服装だと胸を張れそうだ。
紋別まで三時間ちょっと有料道路を走らせて、高速を降りて十分ほどで目的のキャンプ場に着いた。
キャンプ場に来るのなんて、おそらく二十年近く久しぶりだ。
子連れが多いらしく、ファミリーカーが多く停めてある駐車場に彼の黒いセダン車が紛れるように停められた。
トランクから釣り道具を一式取り出した藤澤さんは、小型のクーラーボックスを肩にかけて「行きましょうか」と微笑んだ。
場内は緑いっぱい自然豊か。
所狭しと植えられている木々がさわさわと音を奏でていて、真夏に来たら気持ちよさそう。
子供たちのはしゃぐ声もいたるところから聞こえてくる。
場内マップを眺めながら、藤澤さんの後ろをついていく。
「へぇ、ここって遊具も置いてあるんですね。えっ、SLも走ってるんですか!?」
「小さいやつですけど、走ってますね。時々汽笛が聞こえると思いますよ。あとで乗ります?」
「乗れるんですか!?」
まるで遊園地みたい!
テンションが上がってしまった。
つい小学生の夏休みなんかを思い出して、顔がほころぶ。
「私、子供の頃から虫が大の苦手で。だからこういうキャンプ場みたいなところに行きたいとも思ってなかったんですよね」
「夏休みとかは何してたんですか?」
「両親が共働きだったので、弟と一緒に室蘭のおじいちゃんちに預けられてました。そこで近所の子と仲良くなって、毎日行ったり来たり。……藤澤さんは、夏休みは野球ですか?」
彼は一瞬、懐かしむように目を細めて空を見上げたあと、そうですねとうなずいた。
「野球を始めてからは、夏休みと言えば野球三昧でした。あ、高校野球も見てましたよ。いつか絶対に行きたいと思って」
「実現したんだからすごいですよ」
「気づいたら日が暮れるまでボールを追いかけてました」