打って、守って、恋して。
「まあ、今に分かるよ。試合になればね。素人の柑奈でも余裕で感じると思う、彼がいかに守備の神なのか」
「神、ねぇ」
「信じてないでしょ。でもさ、地味に日本代表に選ばれてるんだよねー、あれで」
「─────日本代表!?」
聞き慣れないすごい単語が出てきたので、思わず声を上げてしまった。
あまりにも大きな声だったので、あとから急いで自分の手で口を塞いだあと凛子に詰め寄る。
「それってすごくない!?」
「すごいことよ。だから言ってるじゃん、あの人わりとすごいんだってば。地味だけど」
地味だ地味だと言うけれど、日本代表に選出されておきながら地味ってのも失礼な話じゃないのか?
山館銀行の練習時間が終わり、グラウンド整備が始まる。試合まで少しのインターバルが空く。
その隙を狙って凛子がトイレに行ったのを見計らい、携帯で藤澤さんを検索してみた。
ただの一般人ならヒットしないだろうが、日本代表に選ばれるような人ならばすぐ見つかるだろう─────と思っていた矢先に、即座にヒットした。
『藤澤旭 二十六歳 二塁手 左投左打
身長174センチ、体重70キロ
札幌豊田リトルリーグ〜札幌青葉シニア(札幌第二中学校)〜北海西高校〜北都大学〜山館銀行』
「あさひって読むのか、あきらかと思った。あ、同い年なんだ…」
親近感が湧くと同時に、それでも違う世界にいるみたいだと思った。
こんなふうに名前を検索して、すぐに出てくるなんてその時点で私とは違う。
二週間前に話した彼が、そんな人だったとは。
「柑奈、お茶」
後ろから凛子がペットボトルのお茶を持って戻ってきた。
受け取りながら、ありがとうと伝える。携帯をバッグに戻し、私たちはあーでもないこーでもないとおしゃべりしながら試合開始を待った。