打って、守って、恋して。
じわっと涙が込み上げてきて、もうだめだと瞬きしたら粒が落ちた。
「ファンだとしたって失格なの。私、あのホームランちゃんと見てないんだもん。怖くて怖くて、見れなかった。目もこうやってぎゅーってつぶってたらいつの間にかホームランになってて、その瞬間なんか全然見てなかったし」
再現するみたいにきつく目をつぶったら、肩をつかまれて唇に何かが押し当てられた。何かというのが彼の唇であることは、すぐに分かった。
びっくりというより、魂が抜けたみたいに目と口がぽかんとあいてしまった。
体感的に二、三秒のキスは、私を黙らせるにはちょうどいい武器だったのかもしれない。
いつも適度な距離をとっていたはずの藤澤さんの顔が、目の前にある。それも、ちょっと怒った顔で。
「誰が決めたの、こうなっちゃだめだって」
「……私」
「俺は違う」
「でも、でも。私、普通すぎて」
「俺が好きなんだから、それじゃいけないの?」
「普通でも、……いいの?」
「どうしたら信じてくれる?」
「……もう一回、キスしてくれたら」
再びキスをした。
さっきより少しだけ長い、しっかり唇を重ねるキスのあと、やっと彼が微笑んだ。
もう、怒ってないみたい。
「信じてくれた?」
「─────うん」
私たちはきつく抱きしめ合った。
信じてないわけじゃなかったし、これで実際の差が埋まるわけじゃない。
でも、言葉ってどうしてこうも強力なんだろう。
一瞬で溝を消してくれる、すごい効果を持っている。
あぁ、もっと早く言ってたらよかったのかな。
……でも、きっとこれが今の私たちの嘘偽りのない気持ちだ。