打って、守って、恋して。
試合が始まって、実際に目で見て、感じたことがある。
きっと試合の展開についていけないだろうと思っていたのだが、案外試合の運びはゆっくりじっくり進んで、テンポが悪いとかそういうことではなく、私みたいな最近ルールを知ったばかりの人間でも楽しめるということが分かった。
「スリーボールでストライク入ってないから、次はフォアボールの可能性が高いってことね?」
「おお、あの柑奈が野球を理解してきてる」
凛子が感動したように目を輝かせたあとすぐに、相手ピッチャーが投げたボールはすっぽ抜けてキャッチャーミットのはるか遠くを通過。
バッターボックスにいた打者が悠々と一塁ベースへ進んだ。
六回の表、山館銀行の攻撃中である。
5対1で山館銀行がリードしている。
というのも、相手ピッチャーが立ち上がりからコントロールに苦しんで不調。
凛子曰くストライクとボールがハッキリしているため、打者の方はストライクゾーンに来た球を打ち返すだけなので今日は勝てるかもしれない、と。
栗原さんは絶好調なのか、初回からバンバン三振を取り続けており、三回に一球だけミスったのを四番打者に打たれ、ホームランにされた一点だけの失点。
ノーアウト一塁。
ここで登場したのが、藤澤さんだ。
こうして見ると、彼は野球選手にしては小柄な方であることが分かる。立ち上がったキャッチャーと比べてみても身長差がけっこうある。
すでに四打席目の彼は、一打席目は犠牲バント、二打席目は外野フライ、三打席目はファウルフライ。
これといったいい当たりはなし。
そしてすでに、バッターボックスでバントの構えを見せていた。