打って、守って、恋して。
観覧席のようなものがちゃんと設けられていて、グラウンドの外野部分に緑色の長いベンチが並べられていた。
ライト方向にもレフト方向にも、それなりに一般客がいる。比率としては女性が多かった。
双眼鏡を持ってフェンスぎりぎりで見ている若い女性たち、ベンチに座って缶コーヒーを飲みながらなんとなく眺めている中年の男性たち、かたまってグループで次々と誰かの名前を呼んでる女性たち。
それぞれ思い思いに選手たちを黙々と見たり応援したりしている。
ライト側の観覧席の一番後ろに腰かけた私は、グラウンドで散り散りになって練習に励んでいる選手たちをひと通り見回した。
練習着は上下とも白いユニフォームで、帽子は本来の青いものをかぶっている。
白い練習着だから少しでも土がつけばくっきりと茶色い汚れがついてしまうのだが、選手たちは気にすることなくそこへ飛び込み、前は真っ黒という人も少なくなかった。
外野ではキャッチボールをしている選手や、ストレッチしている選手の姿が多い。
私のいる位置からだと外野で練習している人はよく見えたけれど、どうやらその中には旭くんはいないらしかった。
どこにいるのかと少し身を乗り出して内野を見ると、守備練習をしている数人を見守るように一塁べースのそばに立っている人がいる。
……すぐに分かった、彼が旭くんだと。
背格好で分かってしまうあたり、だいぶ私もやばいなと思うのだが。
守備練習の順番を待っているのかなんなのか、チームメイト二人と話しながらリラックスしている様子だ。手元に持っているボールをポーンと弾くように軽く上に投げてグローブでとって遊んでいるのも見える。
もうすでに彼のユニフォームはところどころ汚れていた。
背番号もなにもないまっさらなユニフォーム姿でも、もう大丈夫。あなたがどこにいても見つけられる。
少し肌寒い観覧席で、着ている厚手のカーディガンを胸のあたりでたぐりよせて再び見入った。
双眼鏡を持ってくればよかったなと後悔していたら、交代の時間なのか旭くんが小走りでフェアグラウンドへ入っていく。
彼は両肩をぐるっと回して、右手につけたグローブを左手で何度か叩いて体勢を低くした。先ほどまで一緒に話していた二人は、ショートとサードのポジションについて守備体勢になっている。
ホームベースに立った人がリズミカルに次々とボールをあらゆる方向にバットで打っていく。
バウンドを変えたり、打球速度を変えたり、コースを変えたりと様々な打球を想定して内野に散りばめていった。