打って、守って、恋して。
「メッセージかなんかくれればよかったのに。全然気づかなかった」
「いいの。邪魔したくなかったし」
彼に促されて、助手席へ乗り込んだ。
「ずっと前に、旭くんが練習見学なんて退屈だと思うって話してたじゃない?」
走り出した車内で私がそう言うと、彼は即座にうなずいた。どうやら話した時のことを覚えているみたいだ。
「実際、そうだったでしょ?」
「それが全然!楽しかった。打球ひとつひとつでもとり方が違うんだなーって勉強になったよ。次は双眼鏡でも持参しようかな」
「いつだって会えるんだから、別に練習に来なくてもいいんじゃ…」
「分かってないなあ」
恋人として会う彼と、野球をしている彼とではまた違う魅力がある。全部好きだから、見逃したくないのに。
そういうのを、旭くんは分かってない。
男の人なんてそんなもんか。
「今日は練習が終わるの早かったんだね?室内練習場でまだやるのかと思ってたの」
「ああ、それは…」
練習が早く終わったのは、今日は特別のようだ。
「─────テレビ中継!?」
「の、打ち合わせ」
一人で目を見開く私に、落ち着いた口調で旭くんが続ける。
「栗原がいくつかの球団に指名されるのはもう決定事項だから。夕方の情報番組でドラフト中継とうちの銀行での様子を流すんだって」