打って、守って、恋して。
凛子が小難しい顔をしてグラウンドを睨んでいる。
「あぁぁー。この点差ならヒッティングでもいーのに!」
「堅実なのよ、きっと」
「冒険しないねえ」
……なんて会話をしていたら、相手ピッチャーの三球目を藤澤さんがバントの構えからヒッティングに変えて打った。
「バスター!」
凛子がやや興奮したように叫ぶのを聞きながら、速い打球が二遊間を転がっていったのが見えてホッとする。
「よくやった、職人!繋いだぞー!たまにはやるなあ!」
だいぶ後方からお年を召されたおじさんのヤジっぽい言葉の中に、名前すら呼ばれない藤澤さんのキャラがにじみ出る。
「冒険したねえ、まさかだわ」
面白そうにつぶやく凛子をよそに、私は彼女が叫んだ「バスター」をルールブックで調べていた。
ヒットになったから藤澤さんは喜んでいるかと思いきや、無表情で一塁コーチとタッチして手袋を外しながら何かを話している。
…窓口にいた時とはえらい違い。
山館銀行の選手たちが長短打で繋いだその回は二点追加で攻撃を終え、守備へと切り替わる。
打球を待つ藤澤さんの表情はとても鋭い目をしていて、明らかに集中しているのが見て取れた。
腰を落として体勢を低くして、どんな打球もとる。そういう気持ちが全面に出ている。
守備中は、凛子の王子様こと栗原さんが投げているということもあり、彼女が双眼鏡を離さない。
それでも動きだけは肉眼で見えるので、なるべく藤澤さんを見るようにしていた。