打って、守って、恋して。
彼のこれから

十月下旬の、とある日。
この日、運命が変わる人はいったい何人いるだろう。
それは高校生から社会人まで、年齢層は幅広い。

調べてみたら、ドラフト会議というものはなにもすべてが喜ばしいわけでもない。時にはとても非情。
指名確実と言われていた選手が名前を呼ばれなかったことも多々あるらしい。

思い描いていた未来になるかどうか、その入口に立てるかどうか、この日ですべて決まってしまうのもなんだか残酷だ。

そんな状況下に栗原さんがいるというのも緊張するが、たぶん本当に緊張のさなかにいるのは彼本人であって、私たちのような周りの人間が騒いでもどうにもならない。
ましてや地元のローカル番組とはいえ中継までされるというのだから、栗原さんの気持ちを考えるとどうにも落ち着かなかった。


「まあ実際、今年のドラフトの目玉は何人かいる。高校生で三人、大学生で五人、社会人で三人ってところだな。どの選手も剛速球を投げるピッチャーや、ホームランを量産する強力なスラッガーだ。その中に栗原はもちろん入ってはいるが、結局のところ何位で指名されるのかは本人だって分からない。名前を呼ばれるまでは不安だろう」

新聞のスポーツ欄にでかでかとドラフト候補者や予想が書かれているのを机に広げて、淡口さんは栗原さんの立場を考えてちょっと切なそうな顔をしていた。
なんというか、本当に優しい父のような人。

その新聞をのぞき込むようにして翔くんが悩ましげに眉を寄せる。

「即戦力って意味では大学生や社会人の方が指名されやすいっすけどね。将来性を見据えて高校生をとる球団もありますし…こればっかりはそれぞれの方針っすよね」

「栗原は前評判もかなりいいし、どの新聞や雑誌を見てもドラフト上位で有力視されてるから大丈夫だとは思うがな」

この二人はそれぞれプロ野球ファン、高校野球ファンというだけあって本当に詳しい。
次々と寄せられる豊富な情報になかなかついていけず、へぇぇと低い返事しか返せなかった。

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