打って、守って、恋して。
しかし私たちが間もなく実施されるドラフト会議の話で盛り上がっているなか、黙々と仕事に励む一人の先輩。沙夜さんだ。
我関せずといった感じで、パソコンを打ち鳴らし忙しそうにプリンタも稼働している。やがて受話器を肩に挟んで取引先に電話をかけ始めた。
「……あのー、沙夜さんはなんかあったんすか、栗原と」
コソッと私に耳打ちしてきた翔くんは、沙夜さんから漂う空気を感じ取っておおっぴらに聞いてきたりはしなかった。
はっきりとこういうことがあったとかそういうことは私の口からは言えないので、もごもごと、まあ色々と…と濁す。
沙夜さんだって気にならないわけではないはず。でも、なるべく気にしないようにしているのだろう。
「沙夜ちゃん。もうすぐドラフト会議始まるからテレビかけてもいいかい?」
チクチクとしたオーラを縫うようにして、淡口さんが沙夜さんへ声をかける。
どうぞ〜と軽い返事は聞こえたが、彼女が顔を上げた気配はなかった。
私たち三人はもうすっかり仕事なんてする気もなく、揃って応接スペースへ移動してテレビをつける。
見慣れた夕方の情報番組が流れ始め、明るい口調の男性アナウンサーとアシスタントの若い女性がなにやら和気あいあいと地元の動物園について話していた。
そして少し時間が経った頃に、メインMCの二人が笑顔で顔を見合わせる。
『さぁ、それではお待たせ致しました!いよいよ東京でドラフト会議が始まるようです!果たして山館銀行の栗原和義選手はどの球団に決まるのでしょうか?』
『いやぁー、僕としてはできることなら地元の球団に来てほしいって思っちゃいますけどね!』
『それは全道民の願いですね!画面は会場に切り替わりまーす』
見慣れた二人から、テレビ画面がパッとざわざわした会場へと変わった。
もっとピリついた雰囲気なのかと思いきや、見たことのあるどこかの球団の監督や関係者がテーブルを囲んで談笑している姿が映し出されている。
こんな和やかな感じでやるんだ、と意外だった。
テレビを囲うようにして座っていたら、隣にいる翔くんがあごを手でさすりながら首をかしげた。
「やまぎんとはまだ中継つながないんですかね?」
「まだだろ。だって万が一、万が一だけど指名されなかったらなあ…立つ瀬がないじゃないか」
「…たしかに」
淡口さんの見解に納得したようだ。