打って、守って、恋して。
MCに振られて、カメラが栗原さんからそれてぐるっとゆっくり一周する。
室内練習場のようなところにパイプ椅子を並べて、そこにチームメイトが座っているのだが、残念ながら旭くんの姿はまったく確認できなかった。
『栗原さんはチームを離れてしまうことになりますが、気持ちとしてはいかがですか?』
『自分一人だけの力では憧れのプロには行けなかったと思います。支えてくれたチームのみんなには感謝しかありませんね』
『まずは球団と交渉していくことになると思いますが、僕たちとしても地元の選手が地元の球団に来てくれるというのは盛り上がりますし嬉しいです。この結果を最初に伝えたいのは、やはりご両親ですか?』
MCの男性の問いかけに、栗原さんは笑顔のまま言葉を詰まらせた。
妙な間があいて、『栗原さん?』と答えを促される。
『…………両親はたぶんこの中継を見ていると思うので。最初に大切なひとに伝えようと思います』
『なるほど、そうですか!きっと喜んでくれますね!』
特に詳しく突っ込まない男性のそれは優しさなのか適当なのか分からないが、ありがたい配慮にホッと胸をなでおろした。
あえて後ろは振り返らない。沙夜さんが泣いている気配を感じたから。
『社会人野球とプロ野球とではおそらく様々な違いもあると思いますし人間関係も一から始まりますけど、栗原さんはご自分の性格はどう分析されてます?』
『性格ですか?野球になると人が変わるとは言われますけど………………、─────あれ?』
まだ話を続けようとしているMCの質問にまじめに答えていた栗原さんが、なぜか途中で眉を寄せて違う方向にじっと見入る。
彼の視線の先にはモニターのようなものがあり、ドラフト会議が映し出されていた。
「生放送でよそ見とは、なかなか大物になるなあ」
あはは、と淡口さんが声を上げて笑っていたが、テレビの中の栗原さんはガタッと音を立ててイスから立ち上がり、身を乗り出して誰かを探し始めた。