打って、守って、恋して。
そこでやっと、MCの男性アナウンサーが『お待たせしました』と話し出した。
緊急の何かを指示されたようで、耳につけたイヤホンをしきりに気にしている。
『視聴者の皆さま、お見苦しいところを見せてしまいまして大変失礼致しました。なんとですね、山館銀行からもう一人、ドラフト会議で指名を受けたとのことで、今ちょっと確認していました!向かって右の画面に映っていますが、藤澤旭選手ですね、藤澤選手も指名を受けたようです!ドラフトの中継画面を拡大できますか?』
ひとは驚くと、驚きすぎると、声が出ないことを今知った。
予想を大きく飛び越えて、驚くのも喜ぶのも忘れてしまった。
誰よりも先に反応したのは淡口さんだった。
「嘘だろ、藤澤も!?」
「えぇっ!どこ!?どこに指名されたの!?」
呆然とする私を押し退けて、沙夜さんが淡口さんにではなくテレビに尋ねる。
ドラフトの中継画面では下部に各球団の指名選手の名前がずらりと並んでいた。
小さくて見づらかったが、たしかにひとつの球団のところに「藤澤旭」という文字は見つけられた。
会議はまだ二巡目。
「あぁー、こっちじゃなくて東京か…」
翔くんのつぶやきに「東京!?」と聞き返す。
「石森さんに説明しても球団とか分かんないっすよね?えーっと、超有名なあそこじゃなくて、……乳酸菌飲料が有名な球団の方です」
「乳酸菌飲料……なるほど……」
名前だけなら私も知っていた。
「柑奈ちゃん!やったじゃない!」
がばっと盛大に私に飛びついてきたのは沙夜さんだった。
頬ずりしながら自分のことのように喜んでいる。
「藤澤くん、プロに行けるのよ!すごいよ!」
「しかも二巡目ってことは、なかなか期待されてるぞ」
ソファーに腰かけてすっかりくつろぎモードの淡口さんが楽しそうに笑っているが、どうしてかうまく笑えない。