打って、守って、恋して。
─────正直なことを言うと、これまでの流れを見て、藤澤さんの守備が特別うまいとは感じられなかった。
目が肥えていないのだから分かるはずもないかもしらないが、それでも、これといった好プレーはない。
ただ普通に、簡単にゴロやフライを処理しているだけ。
なんというか、華麗にボールをダイビングキャッチしたり、スライディングしながら捕球したり、そういうのを期待していたから拍子抜けした。
それを凛子に言うと、違うのよ、と慌てて首を振ったから驚いた。
「簡単にとってるように見えるでしょ?なんてことないよって顔して。あれがすごいのよ」
「どういうこと?」
ちっとも意味が分からない。
「この打球は絶対にライトに抜けるなってボールを難なくとっちゃう人なの、藤澤さんは。打者一人一人の特徴とか打球のクセを見て、バッテリーの配球に合わせて一球ごとに守備位置変えてるらしいよ。だから、普通のセカンドならダイビングキャッチしなきゃとれないものを、さらりととっちゃうの」
「……一人一人、一球ごとに?」
「そう、その感覚がきっと他人よりずば抜けてるのよね」
真剣な表情をしていたと思ったら、今度は凛子は突然破顔して頭をかいた。
「ほんっとありがたいのよ、こっちとしては。栗原の勝ち星に貢献していただいてるからね」
「……結局、そっち?」
「なによー、その顔!ファンになれば分かるわよ!」