打って、守って、恋して。
画面に映っている旭くんは、まさに青天の霹靂という言葉がぴったり当てはまるような顔をしていた。本当に寝耳に水といった感じ。
土のついた練習着のまま、ぽかんとしていて。周りに祝福されているというのに驚いた表情は変わりなかった。
そんな旭くんを無理やり立たせた栗原さんが、彼を引っ張るようにしてさっきまで座っていた特等席へと導く。
そこに待ち構えるようにしていたやまぎんの上層部の方々が拍手で二人を迎えていた。
番組のスタッフさんがそそくさと出てきて、手早く旭くんにイヤホンやマイクを渡す。彼は衝撃の抜けきらない様子でされるがままだった。
『藤澤選手!二巡目で指名を受けましたね!おめでとうございます!』
画面がドラフト会議からMCの二人とやまぎんの中継画面に切り替わる。MCはパチパチと笑顔で拍手を送っていた。
『……あ、あの……ありがとうございます』
ぼそぼそとしゃべる旭くんは、もはや下を向いている。
カメラに目線を送って、と隣にいる栗原さんにこそっと言われたようだけど、なんだか小さく縮こまっている。
ただでさえ目立ちたくない人なのに、テレビに出るなんて考えられない。
『僕らも驚いていますが藤澤選手も相当驚かれていましたね!球団側から何か事前に話などはされてなかったのでしょうか?』
『世間話程度のコンタクトはありましたけど……、指名するとかそういう話はまったく』
『なるほど、サプライズ指名というわけですね!』
『……すみません、ちょっともう、頭が混乱していて』
さらに下を向く旭くんを見て、MCの女性アシスタントがカラカラと笑い声を上げている。そりゃあ混乱しますよね、と同調しながら。
彼のリップサービスがあまりにも下手すぎて、見かねたやまぎんの監督が助け舟を出した。
『ちょっと藤澤はこういう場に慣れてなくて、申し訳ないです。我々もいきなり出た話なのでびっくりしています。こうなってくると来年以降のチーム事情は厳しくなってきますよ、エースと守備の要が同時にいなくなってしまうので…』
『そうですよね!大きな戦力を失ってしまいますね。喜ばしいことではあるのでしょうが、複雑ですねー!』