打って、守って、恋して。

少し前にもらった合鍵で彼のマンションへ来ていた私は、ひと通り夕飯の支度をこしらえてからずっと待っていたけれど、なかなか帰ってこないのでソファーでうとうと寝てしまった。

彼が帰ってきたのは日付をこえた頃だった。


「柑奈?ごめん、ずっと待ってた?」

やんわりと肩を叩かれて、優しく起こされた。
つけっぱなしの室内灯の下で、ぐっすり寝てしまっていた自分が恥ずかしくて飛び起きる。

「い、いま何時?」

「十二時過ぎたところ」

くたびれた様子で私の隣に腰かけた旭くんは、どさっとスポーツバッグを下ろした。
少し顔を近づけて息を吸い込んだら、お酒のにおいがした。

「……飲んできた?」

「チームのみんなで。……ごめんね、来てくれてると思ってなくて」

「それはいいの。連絡しなかったのは私だから」

ぐーっと静かな部屋に私のお腹の音が響いて、面白くて笑ってしまった。

「ご飯、寝ちゃって食べそびれちゃった」

「少しなにか食べなよ。俺も食べる」

立ち上がろうとする彼の手を、引くように握る。

「─────おめでとう」

旭くんは、何も言わずに私を見つめてきた。

「……嬉しくないの?」

問いかけると、ふるふると首を横に振った。嬉しくないわけじゃないようで、その反応に少しホッとする。
もしかしたら、このままやまぎんにいたかったのかなんて思ってしまったから。


私の手を、彼の手がぎゅっと強く握った。

「嬉しいけど、ちょっと不安」

「……どうして?」

「本当になにも知らされないで指名されたから、準備もなにもしてない」

「こういうことって、本当にあるんだね」

「稀にあるとは聞いてたけど、まさか俺がそうなるとは思ってなかった。それに、プロ入り年齢制限ギリギリだったし…対象にならないかと思ってた」

「志望届は出してなかったの?」

「高校生や大学生は届を出すけど、社会人は出さないんだ。全員プロ志望だと見なされる」

「もともと旭くんはプロ志望……でしょ?」

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