打って、守って、恋して。
「お兄さーん!ボールとってくださーい!」
さっきの小学生たちが、旭くんのそばに転がったボールをくれと声をかけてきた。
彼はそれをまた遊ぶように上に弾きながら拾うと、軽く彼らに投げて返した。
「ありがとうございまーす!」
かぶっていた帽子をわざわざとって頭を下げる子どもたちに、旭くんは手を振り返していた。
私たちはキャッチボールを再開した。
「子どもの頃、休みの日には父親と公園でキャッチボールしてたなあって思い出すよ」
「そういうのいいね」
「たまにだけどね。ほとんどじいちゃんが野球の面倒を見てくれたから、そっちの思い出の方が濃いんだけど」
「私には運動の思い出は皆無だよ…」
「だろうね」
否定しないあたり、私の音痴具合はしっかり把握してくれたようだ。
黄色のゴムボールは旭くんの言うことはすんなり聞いているくせに、私の言うことはまったく聞いてくれない。
真っ直ぐ投げているつもりなのに、幾度となく謎の方向へ飛んでいく。それを予測するように、彼はささっと移動してとってくれた。
顔の横にグローブを構えたら、間違いなくそこへボールが投げ込まれる。気持ちいいくらい、正確なコントロールである。