打って、守って、恋して。
「昨日、球団のメディカルチェックが終わった」
「異常は?」
「もちろんなし。来週、本契約」
私が投げたボールは、珍しく旭くんの足元に転がった。グローブを手のように使って拾い上げ、彼が振りかぶる。
「本契約のあとは、そのまま入団会見」
「……ちゃんと笑うんだよ」
ふっと彼の顔が綻んだ。
ボールは私のグローブへおさまる。
「分かってるって」
えいっと投げ返したボールは、今度は右へ大きくそれた。軽い身のこなしで拾いに行った旭くんが、また指でぽーんと弾く。これはキャッチボールの時の彼のクセなのだろうか?
あのドラフト会議の日から時は流れて、もう一ヶ月以上経ってしまった。
その間に、旭くんの環境はどんどん変わっていった。私なんかじゃ追いつけないほどに。