打って、守って、恋して。
二巡目で指名を受けた彼は球団側と交渉を進めていき、仮契約を結んだ。
仮契約後すぐに関西へ発ち、今度は山館銀行の一員として最後の大会に臨んだ。日本選手権だ。
やまぎんは快進撃を続け、栗原さんはエースとして大活躍。そのルックスですでに多くの女性ファンがついてしまったようで、プロ入りすることも決まっていたからか試合会場では黄色い声援が相当多かったらしい。
逆にひっそりとその陰にうまく隠れて、旭くんはこれといって騒がれることもなく淡々とこれまでと変わらずに華麗な守備をこなし、二番打者としてつなぐバッティングに徹していた。
大会を通じての打率も三割を越え、得点圏打率も悪くない。盗塁も決めていて、見る人が見ればなるほどと思うようなプロに行くにふさわしい成績をおさめた。
……ただし、彼の中では決勝で受けたデッドボールのせいで途中交代を余儀なくされ、最終的に負けて準優勝に終わったことがいまだに納得していないようだったけれど。
怪我も心配したけれど、大事には至らなかったので本当に安心した。
準優勝をおさめた山館銀行は栗原さんと旭くんを送り出し、彼らはそれぞれの球団と契約を結ぶはこびになっていた。
「球団の人たちはどう?雰囲気は?」
尋ねると同時にまたボールがグローブへ投げ込まれる。
手元が狂って違うところへ投げてしまうことはないのだろうか。
「面白い人が多いよ。……あのね、俺のプロ入りは本当に紙一重だったらしいよ」
「えっ、そうなの?」