打って、守って、恋して。
プロの世界は厳しくて険しい。
スポットライトを浴びるのは、本当に限られたごく一部の人たちだけ。
分かってはいたけれど、旭くんは悲しいくらい現実的で、そして私を思いやってくれているのだ。
勢いだけで決めてはいけないと。
グローブをつけていない私の右手を、彼の左手が握る。強く、強く。
「必ず迎えに来るから、待っててくれないかな」
「─────たまに会いに行ってもいい?」
「それはもちろん。来てくれないと困る」
「東京で迷子になっちゃうかも」
「分かりやすい案内図とか送るよ」
「一人じゃ東京ドーム行けないよ」
「…………神宮球場なんだよね、本拠地」
「……………………ごめん」
こんな時に、とんだ勘違い。
「待ってます。待ってるから」
ちゃんと、こまめに連絡してね。
そう言うと、彼は頑張りますと微笑んだ。
そうして彼の手が離れた私の右手には、綺麗な指輪が残されていた。
「えっ!これ……」
びっくりして、一人でわたわたと慌てていたら大切な指輪を落としそうになり、旭くんがさっとキャッチする。
ナイスキャッチ!とか言っている場合ではない。
「なんで大事な場面でそうなるかな。おっちょこちょいだよね、柑奈って」
「よく言われる…」
恥ずかしくなって左手につけたグローブで顔を覆っていたら、素早く右手の薬指に指輪をはめられていた。
小さい石がついた華奢なゴールドの指輪はとても可愛らしくて、これを彼が一生懸命お店で探してくれたのだと思ったら嬉しくてまた涙が出た。
「付き合いはまだ短いけど、ちゃんと本気だよっていう印。これで他の男も寄ってこないでしょ?」
「……そんな人いない」
「一応、心配なの」
遠距離になるし、ともごもごつぶやく旭くんに、私も負けじと言い返す。
「そっちこそ、浮気しないでね」
「誰と浮気するんだよ」
「女子アナとかモデルとか」
「俺なんて相手にされません」
ふふっとお互いに込み上げて、白い息を吐きながら冬の空に笑いを飛ばした。