打って、守って、恋して。
それから、これは私自身の話になるのだけれど。
東京で迷わず電車に乗れるようになったこと。これはかなりすごいことなのだ。
ただし、神宮球場といつも泊まるビジネスホテルの往復だけなのだが。
一度だけ、夏に開催されるオールスターが終わってすぐくらいに旭くんと夢の国へ出かけた。
その時に分かったのが、彼は高所恐怖症ということ。
絶叫系の乗り物には頑なに乗らず、子供向けの少し揺れる乗り物もいい顔はしていなかった。なかなか可愛い一面を見れた。
そういえば、翔くんに新しい彼女ができた。
合コンで知り合ったというひとつ年上の女の子と、仲良くお付き合いしているようだ。
デートはプロ野球好きの彼女と一緒に地元のドームへ観戦に行くことが多い。
時々彼がこぼす愚痴は、
「彼女が栗原栗原ってうるさいんっすよ。なんなんですか、奥さんいるくせになんであんなモテるんすか?」
という、いつもこれ。
「うるっさいなあ。私に言わないでよ」
栗原さんの大ファンという彼女が、観戦するたびに大量の彼の写真を一眼レフカメラで撮りまくっているらしい。
いい気がしない翔くんはいつも沙夜さんに文句をぶつけているが、沙夜さんも負けじと言い返すので決着がつかない。
いつものように淡口さんが二人を止めに入る。
「まあまあ、落ち着いて。栗原はリーグ優勝の立役者の一人なんだから、翔くんも文句言わないの」
「…………そっすね」
その言葉通り、地元の球団は見事に今年、リーグ優勝を果たした。
数年ぶりの快挙に地元は大いに盛り上がり、それにひと役買ったのがまさに栗原さんだった。