打って、守って、恋して。
「新人で十四勝もした栗原はすごいと思ってたが、藤澤もなかなかいい成績だったんだな。地味だから気づかなかったよ」
「ほんと地味っすよね、栗原に比べると」
「笑うと可愛い顔してるんだけどなー。人見知り激しすぎるのよね。でも最近、試合中にさりげなく感情を表に出してるってカズくんが言ってたけど、どれのこと?柑奈ちゃん」
「試合中、少し笑うようになったんですよ!」
「…………それって普通じゃないの?」
旭くんのことを寄ってたかって貶すので、もう私は何も言うまいと三人を睨んだ。ごめんね、と三人は苦笑いしている。
ファインプレーをしたあとにほんの少し笑ったり、タイムリーを打ったあとに小さくガッツポーズしたり、それなりに頑張って感情を見せようとしている姿がいいのに!
わかってくれる人はいないようだ。
あんなに仕事しろと口酸っぱく言っていたはずの淡口さんが、まったく仕事をする雰囲気を出さずにいまだに新聞を読んでいる。
ついに老眼鏡を購入した彼は、前よりも細かい字が読みやすくなったと喜んでいた。
「シーズンオフになったんだから、藤澤もこっちに来てるんじゃないのか?」
「いえ……まだ」
「秋季キャンプは終わってるよな?」
「とっくに終わってます」
淡口さんと話していると、悲しくなってくる。
触れられたくない事実に無理やり顔を向けなければならないような悲しさ。
おじさまの無神経さを呪いたくなる。
私の不穏な表情に気がついたらしい沙夜さんがわざとらしく咳払いし、色々あるのよきっと!なんて微妙な励ましを口にして目をそらしていた。
その「色々」ってなんなんだろうか。
一年前の同じ頃にひしひしと感じていた「彼の存在の遠さ」はさらに輪をかけたようになったが、私もこの一年でだいぶ精神は鍛えられた。
物理的な距離は遠いけれど、心の距離は離れていない…と思っている。少なくとも、私は。
彼はあのような性格なので、初めて気持ちを伝え合ったあの日以来「好き」だとか「愛してる」だとか、そんな愛の言葉は一切言ってはくれないが、ちゃんと大事にしてくれているのは分かっている。
ただとにかくいかんせん彼はあまり連絡をくれないので、何を考えているのかよく分からない時が多々ある。今現在のように。