打って、守って、恋して。
試合後、勝利の余韻が残る中で私は凛子に連れられて球場の出入口に立っていた。
選手の「出待ち」状態である。
こういうことを芸能人ではない、社会人野球の選手に対してもやるんだ…と内心びっくりしてしまったのは凛子には内緒だ。
大人気の栗原さんの勝利ということもあり、私たち以外にもかなりの人数の女性たちがひしめき合っている。
これ、ほとんど栗原さんのファンなのでは?
「運がいいとサインもらったり、写真撮れたりするの!」
ちゃっかりサインペンを用意している凛子に呆れていると、なによ!と口を尖らせて反論してきた。
「仕方ないなあ、柑奈にもペンは貸してあげるから。でも断られると思うけど」
「……誰のこと言ってるの?」
「え?藤澤職人にサインもらうんじゃないの?」
「やだー、ミーハーみたいでそんなの無理!」
「藤澤職人は否定しないんだ……栗原じゃないんだ……」
天然記念物でも見るかのような目で私を上から下まで眺めた凛子は、悩ましげにため息をつく。
「柑奈は昔からそうだよね、人気のある優しいイケメンの先輩よりも、その陰に隠れてる地味メンを好きになってたなぁって」
「…いつの話してんの!」
「え?高校時代。ちゃっかりその人と付き合ってたよね?たしか」
「地味メンじゃないよ、普通だった、はず」
「私からしたら地味メンですーーー」
どこに行ってもこうやって二人で盛り上がれるのだから、凛子とはとことん気が合う。けなしあっても、小馬鹿にしても、本心じゃないから面白い。
嫌味のない彼女の物言いは昔から大好きだ。
あははと笑い合っていると、どこからか「あっ、来た!」という女性の声。
ちょうど球場から山館銀行の選手たちが出てきたところだった。
誰が一番に行くの!?
……という、ファンたちの沈黙の探り合いを破ったのは、私の親友だった。