打って、守って、恋して。
おまけエピソード集
①社会人野球日本選手権大会
─────これが、アマチュア最後の大会、最後の試合。
社会人野球日本選手権大会、決勝。
旭くんがずっと一緒に頑張ってきた山館銀行のチームのみんなとできるのも最後だし、お世話になった監督に恩返しする最後のチャンスだと話していた。
最後の大会を優勝してプロに行くという、最高の花道を自分たちで飾りたいと。
だからだろうか、今日の旭くんは明らかに違っていた。
画面越しでも伝わる、彼の背中から漂う気迫がちょっと怖かった。
トップバッターが第一打席に立ったところで、自動的に旭くんがネクストバッターズサークルに入る。その姿をカメラが映してくれたのだが、しゃがんで、じっと戦況を見ている。
あまりそういう姿は見たことがなかった。
たいてい素振りをしているとか、ゆるくストレッチをしているとか、なにかしら動いていることが多いから。
見たことがあるとすれば、前の打者が敬遠された時くらいか。
付き合って分かるようになったのだけれど、彼はノーヒットで終わった試合があると、次の試合で絶対に前回のぶんを返さないと気が済まないようなのだ。
そういう負けん気の強さというか、負けず嫌いなところがあるからプロに行けることになったのかもしれないが、彼女の立場からするとそんなに頑張らないでと声をかけたくなってしまう。
……そんなことはしないけど。
準決勝でノーヒットに終わった彼。
大事な最後の試合だ。絶対に今日は打ってやるという気持ちが、しゃがんで待つ後ろ姿から嫌というほど伝わってきた。