打って、守って、恋して。
『さて、トップバッターがフォアボールを選んで一塁に出塁しました。続いて二番の藤澤が打席に立ちます。……彼はついにドラフトにかかりました!まあまず注目すべきはその守備力ですが、どうでしょう?』
実況アナウンサーが落ち着いた口調で旭くんのデータを読み上げる。応えるように解説も同調した。
『数年前に藤澤くんを見た時は、左のセカンドはありえないと思っていたんですがね。実際動いているところを見るとそのハンデは一切感じませんよね。右利きの選手よりもひとつステップを多く踏んでいるのですが、すべての動きがほかの選手より一拍速いというか…』
『守備の読み位置も素晴らしいとの声がありますね。本人の話ですと、データは一応見てはいるようですが基本は感覚で守備位置を変えているとのことです』
『はあ、それはもう感性ですよね。うらやましいです』
二人の会話にさも自分もそこにいるかのように小刻みにうなずきながら、テレビの中で投球を待つ旭くんの表情を見つめる。
パッと見はいつもの彼なのだが、雰囲気がどう見ても違う。
鋭い視線の先に見据える相手ピッチャーに、無言の圧力をかけているように見えた。
その圧力のおかげなのかピッチャーのコントロールが定まらず、旭くんが打ったボールは弧を描いてライト方向へ飛んでいく。
綺麗なライト前ヒットになった。
「はあああ、よかった……」
へなへなと力が抜けて応接スペースのソファーへもたれかかった。
私のこれも毎度のことなので、ほかの三人は慣れっこである。力入りすぎ!といつも言われる。
この日の旭くんは、二安打と犠打を一つ決めた。
もうひとつの安打はすっきりとしたものではなかったが、彼らしい内野安打。ちょっとしたゴロを内野安打にできるところがまたいいのだ。