打って、守って、恋して。
②新入団選手発表会見
『藤澤旭内野手。○○年、四月十七日生まれ、二十六歳。身長百七十四センチ、体重七十キロ。北海道山館銀銀行、ドラフト二巡目指名、背番号57。左利きの内野手で大成した人はいない……を覆す選手がここに現れました。監督の強い要望で獲得。左利きとは思えない素早い捕球送球、そして球際の強さは即戦力と太鼓判を押されています。守備の要として活躍を期待されています』
綺麗な白い布がかけられた長いテーブルには、七名分の名前が書かれた紙が下げられている。
そのひとつに、『藤澤旭』の文字。
進行役に名前を呼ばれて少し早足で舞台上に姿を現した旭くんは、ダークグレーのスーツに身を包んで緊張した面持ちで小柄な監督の隣に立った。
まずは監督と二人で並んで記者の方々に存分に写真を撮らせるが、もちろんこの時彼の顔に一切の笑みはない。
ひたすら引きつっている。
そして後ろから女性が監督になにかを差し出す。ユニフォームらしい。
監督はそれを旭くんへ向ける。
おそらく事前にしっかり打ち合わせをしていたようで、彼はすんなりと上に着ていたスーツの上着のボタンを外して女性へ渡し、監督にユニフォームを着せてもらう。
最後に、帽子をかぶせてもらって出来上がりだ。
また、写真撮影。
やはり笑顔はまったくない。
さっき登場した一巡目指名の投手は高校生だというのに、余裕で爽やかな笑顔を浮かべていたというのに。
席についた旭くんは、緊張した表情のまま視線はやや下を向いていた。