打って、守って、恋して。
「栗原さーーーん!今日はお疲れ様でした!勝利おめでとうございます!写真撮ってくださーい!」
速い!声も通る!しかもいつもよりワンオクターブ高い可愛い声!
オンナを全面に押し出す凛子にたじろいでいると、あろうことかさっきまであんなに遠かった栗原さんが笑顔で近づいてきた。
近くで見るとものすごく背が高いし、なによりケタ違いのかっこよさ。これは、ファンでなくともうっとりしてしまうレベルだ。
凛子がいの一番に声をかけたため、栗原さんはこちらへ来ると慣れた様子で差し出されたサインペンで彼女のTシャツにサインし、写真撮影にも応じる。
携帯で写真を撮るのは、当然、友達の私なわけで。
「はい、チーズ!」なんて言ってる間に、私の横を藤澤さんが通り過ぎていってしまった。
「ありがとー、柑奈!」
すっかり上機嫌の凛子に携帯を渡し、私はバスに向かっていく藤澤さんの後ろ姿になんて声をかけたらいいか迷い、結局、言葉に詰まる。
何人か他の選手に声をかけている人もいたけど、藤澤さんはノータッチ。
話しかけるのは今しかないのに、思いつかない!無理!
と、思っていたのに、そこで助け舟を出したのは凛子だった。
「藤澤さん!待ってくださーい!」
さっきと同じ、よく通る声で呼び止めている。彼女のその積極性にはいつも驚かされる。
足早に立ち去ろうとしていたらしい彼は、呼び止められてビックリしたのか目を丸くして振り返ったところだった。
凛子に引っ張られて彼の元へたどり着いた私は、スーツを着て窓口に立っていたあの時とはまったく別人の藤澤さんの顔をよく見ることができない。
どうしても守備中に見せていた真剣で集中している表情を思い出してしまい、「ご利用ありがとうございました!」と爽やかに対応してくれたあの人とは違うんじゃないかと勘違いするほどだ。