打って、守って、恋して。
③二人の初対戦
『二回の表、ツーアウト一塁の場面で回ってきたのは七番セカンドの藤澤です。ピッチャーの栗原は今日は相当調子が良さそうですが、ここはひとつもう一打欲しいところではありますね』
『そうですね、初回のあの三振二つの決め球のストレート、かなり走っていましたから。速球に対してコンパクトに芯に当てることができればチャンスはあると思います』
『えーっと……あ、手元の資料によりますと、あぁ、この二人は元チームメイトなんですね』
『へぇ、そうなんですか?』
『北海道山館銀行から栗原と藤澤はそれぞれ別のチームへ歩みを進めた格好になります。ですので、公式戦としては初対戦になりますね』
それはなかなか面白いですねぇ、と解説の男性がカラカラと笑った。
日程的に平日ど真ん中から始まったこの交流戦開幕試合。
土日ならまだしも平日、さすがに仕事を休めなかったので家で観戦だ。
旭くんが東京のプロ球団へ入団してから、私は思い切ってCS契約を結んだ。こうすれば直接球場へ足を運べなくても毎試合観戦することが可能だからだ。
サッサッサッと仕事を終わらせて、定時十七時半ちょうどきっかりに「お疲れ様でした!」と頭を下げて事務所をあとにした私は、のんびりと帰宅準備をする沙夜さんに
「早く帰らないと試合に間に合いませんよ!」
と声をかけてから帰った。