打って、守って、恋して。
まさか話しかけれるとは想像もしていなかったので、暑いからとは違う冷や汗みたいなものが一気に吹き出した。
戸惑いながら、イケメンいたっけと考えをめぐらせる。
「イケメン…ですか。今日はまだ出てませんけど、中継ぎに一人そこそこイケメンがいます!あとは……このチームじゃなくて、相手チームのショートの人がすっっごく人気ありますよ」
「ショート……」
「ほら、真ん中のベースと向こうのベースの真ん中あたりに立ってる人」
“ショート”と言われてもどこのポジションの人なのか理解できていない様子の彼女に、すかさず具体的な説明をしてくれる彼。
見事な阿吽の呼吸を、目の前で見せてもらって感動。
私たちのいる場所から肉眼で顔を確認するには、さすがに距離が遠い。
そのため、彼女はなんとか頑張ってその顔を見ようと目を細めたり開いたりして凝視したのだが、最終的につぶやいたのは
「……あー、なんか、自分に自信ありそうな人ではありますね」
というバッサリしたもの。
遠目で見たその感想も、私のツボに入って笑ってしまった。
試合は旭くんのチームの攻撃が始まったところ。
四番バッターのフルスイングがピッチャーのカーブを芯でとらえた……が、運悪くその打球の先には例のイケメンショートが待ち構えていた。
「ああっ、だめだ…」
せっかくのいい当たりだったのに、と肩を落としていたら、打球が勢いよくイレギュラーしてショートが構えていたグローブを弾いた。
「あーーーーーっ!」
私よりも大きなリアクションを見せたのは、隣の彼女だった。
ボールはころころと三遊間を転がり、三塁手がカバーしたものの打ったランナーはすでに一塁に到達していた。
やったあ!と持っていたメガホンを何度も叩いて鳴らす。
一応、隣の彼女もメガホンは持っているようだがお飾りになりつつある。打ち鳴らすこともせずに彼に問いかけている。
「あのイケメン、もしかして下手なの?」
「いや、そんなことないはず」
……うん。たしか、ベストナインもゴールデングラブ賞もとっていたはず。
勝手に人様の会話に心の中で参加していたら、彼女がふと思い出したように彼に尋ねた。
「あれ? ここってもしかして、竜王戦主催してる会社のチームだっけ?」
「系列だろうね」