打って、守って、恋して。


「柑奈、何か言わないと!」

凛子に急かされて顔を上げると、試合中にはあまりちゃんと見えなかった藤澤さんの表情がよく見えた。
……やっぱり、あの時と同じ人。

でも、ユニフォームを着ていると、なんだか違う。同じ人なんだけど、どこか違う。


「お、お疲れ様でした……」

やっと言えた一言は、最後あたり尻すぼみになって消え入る。

少しだけ色素が薄い瞳が私を見つめ返してきたけれど、彼はにこりともせず、でも冷たいわけでもない、どっちともとれない温度で軽く頭を下げた。

「…………ありがとうございます」

小さくて低い声でボソッとそう言うと、すぐにくるりと私たちに背中を向けてバスに乗り込んでいってしまった。


もっと、気の利いたことを言えてたなら違う反応をしてくれたのだろうか?
呆然と立ち尽くしていると、凛子が「ほらね?」と私の顔をのぞき込んできた。

「なーんか違うでしょ?萎えるでしょ?」

「……萎えはしないけど」

ちょっとショック、かな。

続けた言葉は、生ぬるい風と一緒にふわりと浮かんで消えていった。






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