打って、守って、恋して。
「お客様一名様ご到着でーす!」
私たちのテーブルへ、若い男性従業員が威勢のいい声を上げながらやってきた。
彼の後ろに隠れるようについてきたらしい旭くんが、ひょこっと顔を出した。
「……あっ、旭くん。急にごめんね、みんなで飲むことになって。たまにはいいでしょ?」
「…………うん、いいよ」
人見知りの旭くんは、明らかに緊張した面持ちで私の隣に腰かけた。
彼を見てどんな反応をするだろう、とワクワクして向かいに座る二人の様子をうかがう。
「………………あやめ」
最初に反応したのは湊さんの方だった。
メガネの奥の目がおそらく最大級に見開かれており、信じられないといったように旭くんを見ていた。
だけど、あやめさんは一向に気がついていない。「はじめまして〜」と律儀に挨拶している。
「……あやめ」
「なによ!ちゃんと挨拶!」
「……あやめ」
「なに?」
「……藤澤。さっきの57番」
「─────は?」
二人は小競り合いをしたあと、ようやくあやめさんがまじまじと分かりやすく上から下まで旭くんの姿を確認する。
何度か視線を行き来させてから、みるみるうちに表情が変わっていった。
「はじめまして、藤澤旭です」
「えええええええええ!あの57ばーーーーん!!」
予想以上に驚いている二人を目の前にして、嬉しくなって一人でニヤニヤしてしまった。
俺が来るって言ってなかったの?という目で私を見てくる彼に何もリアクションをせずにいたら、おもむろにあやめさんが立ち上がってつつつと右手を旭くんに差し出した。
「ファンです!握手してください!」
……さすが、あやめさん。
湊さんも、「感服したよ」と言いたげな顔だった。