打って、守って、恋して。
開いた新聞をそのまま淡口さんに見せて、ついでに先日記念に撮った携帯の写真を並べて置いた。
「これ!見てください!」
「なんだあ?……おぉ、湊四段のコラムか!ちょっと読ませてくれ」
「やっぱり知ってるんだ!湊さんのこと!」
「だって将棋好きだもん。将棋知ってるやつで湊四段のこと知らないやつはいないんじゃないか?」
「じゃあこっち!携帯の写真!見て!」
なんだなんだ、と淡口さんは携帯をのぞき込む。
しかしよく見えなかったようで老眼鏡をかけ直し、もう一度携帯を見つめた。
東京で四人で飲んだ時に、最後に撮った記念写真だ。
途端に弾かれるように淡口さんが立ち上がった。
「え!?なんで!?柑奈ちゃん、どうして湊四段と写真撮ってるの!?」
「偶然なんです!たまたま旭くんの試合を見に行ったら席が隣で……」
「すげぇ!プロ棋士だぞ!?」
「うっそー!!」
飛び上がるような事実に、私と淡口さんは大興奮していた。
これで色々と不可解だったあやめさんの言動がすべて一気に解決した。
思い起こせばヒントばかりだったのだろうが、将棋に興味がなければ気づかないことだらけだ。
「神宮球場と将棋会館、近いからなあ。いいなー、俺もプロの棋士と会ってみたい」
羨ましがる淡口さんの横で、失敗した、とがっかりした。
あの時、あやめさんたちは旭くんにしっかりサインをもらっていたけれど、私も湊さんにサインをもらっておけばよかった。なんなら、淡口さんの分まで。
悔しい!もったいない!
─────プロといえどひとたび外に出れば気づかれない。
それは、どの世界でもそうらしい。