打って、守って、恋して。
彼の表と裏

山館銀行の試合を初めて見に行ったあとは、凛子に誘われるたびに一緒に行くようになった。
スポーツ観戦に積極的に参加するなんて、少し前の私では考えられないことだ。

ちょっとずつ野球に詳しくなっていく自分も、応援に熱が入るようになった自分も、見知らぬ人ともハイタッチできるようになった自分も、どれも新しい自分。
この歳になって趣味が増えるとは思いもしなかった。


観戦して四試合目。
ついに自分用の双眼鏡を購入し、凛子に「貸して!」と言わなくてもよくなり、心ゆくまで好きなように両眼に当ててグラウンドを眺めていると、隣で「あのさ」と話しかけられた。

「なに?」

「柑奈の会社って夏休みとれるの?」

凛子も自分の双眼鏡をのぞいていて、私たちは二人とも同じような格好のまま話す。

「まだ申請してないけど、毎年もらえるよ」

「何日間?」

「えっと、三日間もらえるから土日とくっつけて五連休かな」

たいてい毎年お盆に夏休みをあてているので、今年もそのつもりでいた。

試合はやまぎんが6対5で負けている。
終盤七回に差し掛かっていて、今日はさすがに負け試合になるのかなと漠然と感じていた。

七回裏、藤澤さんの打順は二番なのであと二人。
ツーアウトランナーなし。
九番バッターが打席に立って、ファウルで粘っている状況だ。


「もしもこの試合勝ったらさ、来月後半に夏休みとってくれない?」

「え?なんで?どういうこと?」

双眼鏡をのぞきながら、話が見えないよと凛子に訴える。
彼女はいくらか面倒くさそうな口調でさらりと言った。

「えーっとね、柑奈は分かってないみたいなんだけどさ、実はこれ都市対抗野球の二次予選の決勝なのね。この試合勝ったら次は全国大会みたいな感じで、東京で試合するのよ」

ぜ、全国大会!?

「うそ!?そうなの!?じゃあこれ大事な試合じゃん」

「そういうこと。勝てば東京ドームで試合なの」

「東京ドーム行ったことない!」

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