打って、守って、恋して。

目立つことが苦手な旭くんが、シーズンオフになる冬の時期に一度だけゴールデンタイムにスペシャルで放送されたスポーツバラエティのような番組に出演した。
本人は絶対に嫌だと拒否したらしいのだが、「せっかく新人王獲ったんだし記念に」と球団に後押しされ、その番組に栗原さんも出ることが分かり、渋々承諾したのだと言う。

まさにその放送日が今日だと知り、テレビをつけたら旭くんに怒られた。


「いいよ、見なくて」

「なんで!?せっかくだから一緒に見ようよ」

「ほんとやめて」

ソファーに座っている私の手にあるリモコンを狙う彼から逃げていたら、ちょうどその番組が始まった。
ほらほら!と彼を促してソファーに座らせ、並んでテレビを鑑賞する。

とても居心地が悪そうな顔で、しかし諦めたようで大人しく旭くんも見始めた。


まだまだプロ野球のことは分からないことが多い私でも、名前も顔も知っている有名なほかの球団の選手たちがぞろりと揃っている中、はじっこの席で旭くんと栗原さんもきちんと肩を並べている。
ちょっとした感動を覚えてしまった。あぁ、すごいなぁって。

「……収録中はみんなと話したりした?」

「うん、わりとみんな仲はいいよ。上下関係しっかりしてるから、そのあたり分かりやすくてやりやすい」

「え、上下関係?それって年俸順?」

「まさか。プロ野球界は入った順じゃなくて、年齢順なの。だから俺はルーキーだけど、年下の選手にはすっごい気を遣われた」

へえぇ。
ひとつ新しいことを知って賢くなった気になる。

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